LTVとは|その意味や計算方法・マーケティング手法をわかりやすく解説
昨今、マーケティングにおいて注目されている指標にLTVがあります。LTVは顧客ととの取引の始まりから終わりまでにもたらされる利益を示す指標です。LTVが重視されるのにはいくつかの要因がありますが、動画配信や音楽配信に代表されるサブスクリプションサービスの台頭も、理由として挙げられます。
LTVが重視される背景を押さえたうえで、LTVの計算方法や向上させるためのポイントなどを紹介していきます。
LTVとは
LTVとは「Life Time Value(ライフ タイム バリュー)」の略称で、顧客生涯価値と訳されているマーケティングの指標です。LTVは顧客が企業と取引を開始してから終了するまでの期間である、顧客ライフサイクルにおいて得られる利益のことをいいます。LTVにおける価値とは、顧客にとっての価値ではなく、顧客が企業にどれだけの利益を与えられるかという意味での価値を指します。
昨今では市場の成熟化によって飽和状態になっていることなどから、新規顧客の獲得が難しくなっているため、マーケティング戦略の立案や経営判断においてLTVが重要視されています。
LTVが重視されるようになった背景
LTVが重視されるようになった背景として、新規顧客の獲得が難しくなった点を含め、主に次の3点が挙げられます。
- 顧客ロイヤルティの重要性が高まっている
- サブスクリプションサービス市場が拡大している
- 3rd Party Cookieが2024年より廃止される
市場の成熟化によって飽和状態になったことや、商品のコモディティ化が進んだことなどによって、新規顧客の獲得が難しくなっています。そのため、既存の顧客をロイヤルカスタマーに育成していく必要性が高まり、LTVの向上が重要視されています。また、サブスクリプションサービスの市場拡大によって、顧客との長期的な関係性が重視されていることも、LTVという指標が重要とされる要因です。このほかにも、Google Chromeの3rd Party Cookieが廃止されるため、ネット戦略においても既存の顧客の維持が必要とされています。
顧客ロイヤルティの重要性が高まっている
顧客ロイヤリティの向上の重要性が高まっていることが、LTVが重視される大きな背景としてあります。顧客ロイヤリティとは、顧客が企業やブランドに対して感じる忠誠心、すなわち信頼や愛情を指します。
顧客ロイヤリティの重要性が高まっている理由として、様々な市場が成熟化によって飽和状態になり、新規顧客の獲得が難しくなったことから、既存の顧客の維持が喫緊の課題となっていることが挙げられます。顧客獲得のためのデジタルマーケティングツールの普及や、EC市場の拡大などによって、新規参入のハードルが下がっていることが要因です。たとえば、D2C(Direct to Customer)と呼ばれる製造者と顧客の直接取引も、インターネットで盛んに行われるようになりました。一方で、少子高齢化による人口減少に伴い、市場が縮小していくことも見込まれています。
また、市場の成熟化は商品のコモディティ化ももたらし、機能や品質では差がつきにくくなった結果、価格競争に巻き込まれないためには、顧客体験の向上を図るなどブランディング戦略を重視していく必要があります。
こうした理由から売上を確保していくには、既存顧客を自社のファン化して、商品やサービスを繰り返し継続して購入するロイヤルカスタマーとして育成していく必要があるのです。ロイヤルカスタマーは長期による継続的な取引によってLTVが高くなる傾向があり、ロイヤルカスタマーの増加は安定的な売上の確保につながっていきます。
サブスクリプションサービス市場が拡大している
従来の売り切り型のビジネスモデルに対して、サブスクリプションサービスの市場が拡大していることも、LTVが重視されている要因です。
サブスクリプションサービスとは、商品やサービスを一定期間、定額制で利用できる権利を購入するビジネスモデルをいいます。一般的にサブスクリプションサービスでは、月単位や年単位の契約期間中は、対象となる商品やサービスを回数の制限なく利用することが可能です。サブスクリプションサービスは動画、音楽、電子書籍やコミック、ゲーム、ソフトウェアなどのデジタル系のサービスのほか、ファッションや家電、インテリア、飲食といった非デジタル系サービスも展開されています。
株式会社矢野経済研究所の調査によると、サブスクリプションサービスの国内の市場規模は2020年度の8692億4,400万円から、2021年度は9,615億5,000万円と前年比で10%以上も拡大し、2022年度は1兆524億7,500万円に及ぶと見込まれています。
参考:株式会社矢野経済研究所|サブスクリプションサービス市場に関する調査を実施(2022年)
サブスクリプションサービスでは顧客が契約を継続するほど、サービスが成長します。そのため、短期的な売上ではなく、継続的な顧客との関係性の構築による累計の売上がサービスの評価で重視されるため、LTVは重要な指標となります。
3rd Party Cookieが2024年より廃止される
個人情報の保護の観点から3rd Party Cookie規制が強化されていることも、LTVの向上の重要性が高まっている要因です。
そもそもCookieとは、WEBサイトを訪問したユーザーの情報が一時的にブラウザに保存されるファイルのこと。以前に訪問したWEBサイトを再度訪問すると、CookieがWEBサーバーに送られます。そのため、IDやパスワードを入力しなくてもWEBサイトにログインできたり、ネットショップで買い物かごに商品を入れたままログアウトしても、次に開いたときに買い物かごに残っていたりするのです。また、CookieはWEBサイトでユーザーごとに合った情報を提供したり、広告を表示したりするためにも用いられています。
Cookieには、訪問したWEBサイトのドメインが発行する1st party Cookieと、訪問したWEBサイト以外の第三者のドメインが発行する3rd party Cookieがあります。3rd party Cookieは一度WEBサイトを訪問したユーザーを追跡して広告を表示するリターゲティング広告や、WEB広告の効果測定などに用いられています。
GoogleではChromeの3rd Party Cookieの廃止を発表し、何度か延長されていますが、2024年から段階的に廃止されることが決まっています。3rd Party Cookieが廃止されると、リターゲティング広告の運用が難しくなるとされています。そのため、今後は1st party Cookieのデータの活用のほか、既存顧客の購入頻度や購入価格の向上に注力していく必要があるため、ネット戦略においてもLTVの重要性が高まっているのです。
LTVを向上することで期待できる効果
LTVの向上によって、営業コストの削減と利益率の改善の効果が期待できます。
マーケティングにおいて「1:5の法則」という通説があり、広告やキャンペーンなどを展開して新規顧客を獲得するには、既存顧客を維持するためのコストの5倍のコストがかかるとされています。また、「5:25の法則」は、既存顧客の離脱を5%削減すると、利益率が25%向上するという法則です。
一般論にはなりますが、新規顧客の獲得に注力するよりも、既存顧客の維持に力を入れた方が営業コストの削減や利益率の向上につながるため、LTVの向上によって低コストで利益を確保できる体質になります。
LTVの基本的な計算方法
LTVの算出には様々な計算方法がありますが、もっとも基本的な計算式として以下があります。顧客の平均データがあれば、簡単に算出できる方法です。
顧客の平均購入単価は、顧客が1年間に自社の商品やサービスを購入した際の1回の購入単価の平均を指します。平均購入頻度は顧客の1年間の平均購入回数です。平均継続期間は顧客が自社の商品やサービスを利用し始めてから継続して利用している年数の平均です。
LTV=顧客の平均購入単価×平均購入頻度×平均継続期間
<計算例>
平均購入単価:6,000円、平均購入頻度:3回、平均継続期間:2年というケース
LTV:6,000円×3(回)×2(年)=3万6,000円
上記は売上のみを反映して算出しているため、新規顧客の獲得や既存顧客の維持にかかったコストを考慮すると、以下の計算式となります。
LTV=顧客の平均購入単価×平均購入頻度×平均継続期間-(新規顧客の獲得コスト+既存顧客の維持コスト)
<計算例>
平均購入単価:6,000円、平均購入頻度:3回、平均継続期間:2年、1人あたりの新規顧客の獲得コスト:1,000円、1人あたりの既存顧客の維持コスト:400円(200円×2年)というケース
LTV:6,000円×3(回)×2(年)-(1,000円+400円)=3万4,600円
LTVを向上させるための対策ポイント
LTVを向上させるため対策として、主に次の4つのポイントがあります。
- 顧客単価を上げる
- 商品の原価を下げる
- 購入頻度・接点を増やす
- 継続利用者を増やす
LTVを向上させるには、顧客単価や購入頻度を向上を目指すとともに、継続利用者を増加させる施策も有効です。また、商品の原価を下げると収益率のアップによって、LTVの向上につながります。
顧客単価を上げる
顧客が1回あたりの購入金額である顧客単価が上がれば、購入頻度や継続期間が同レベル以上であれば、LTVは向上します。
購入単価を上げるための施策として、以下が挙げられます。
- 商品・サービスを値上げする
- 商品・サービスに付加価値をつける
- 上位の商品・サービスへの移行を促す
- 別の商品・サービスとセット販売をする
単純に商品やサービスの値上げを行えば、顧客単価は上がることが見込まれますが、顧客が納得できる理由がない場合には離反が起こりやすい点に注意が必要です。特に商品やサービスが価格面から顧客に支持されているケースでは、値上げは離反を招く要因となります。
そのため、顧客単価を上げるには、商品やサービスに付加価値をつける、あるいは上位の機能を持つ商品やサービスへの移行を促すといった、顧客側にもメリットがある方法をとるのが得策です。現行の商品・サービスも残して上位モデルを設定するなど、選択の幅を広げることで、離反を防ぎながら購入単価の向上を目指せます。
あるいは、顧客の興味を惹くような関連する商品やサービスとのセット販売を行い、お得感を出すという方法もあります。
いずれの方法をとる場合にも、顧客単価を上げるには顧客の目線に立って、購入の目的を意識した施策を展開し、顧客ロイヤリティの向上につなげていくことが大切です。
商品の原価を下げる
先述したLTVの計算方法では粗利率を踏まえていませんが、実際の収益には仕入れ価格なども影響します。「LTV=顧客の平均購入単価×収益率×平均購入頻度×平均継続期間」といった計算式を用いるなど、収益率を踏まえたLTVでは、商品の原価を下げるとLTVの向上につながります。
商品の原価を下げるには以下に挙げる施策があります。
- 仕入れ先と価格交渉する
- 仕入先の見直しをする
- 材料の見直しを行う
仕入先と価格交渉を行い、商品の原価を下げる方法がありますが、交渉材料が必要です。仕入先を一社に絞って仕入れ量を増やす、長期の契約を結ぶ、まとめて注文を行って1回あたりの発注量を増やすといった方法があります。あるいは、他社の見積もりをとり、仕入れ価格の相場を改めて把握したうえで、仕入先の見直しを含めて交渉を行うのも有効です。
また、オリジナル商品を発注している場合には、使用する材料を見直して原価を下げる方法もあります。
ただし、商品の原価を下げるという対策をとる場合には、顧客満足度の低下による離反が起きないように注意が必要です。材料の変更による商品の品質の低下はもとより、仕入れ先の変更によってロジスティクスの体制が変わり、欠品が頻発するようなケースも、顧客体験の質が低下につながります。商品の原価を下げる方法は、現行の商品や顧客体験の質を維持できる範囲にとどめるのが基本です。
購入頻度・接点を増やす
顧客と接点を増やすといった施策により、購入頻度を増加させるという方法も、顧客単価や購入継続期間が同等レベル以上であれば、LTVの向上につながります。
接点を増やすなど購入頻度を高めるための対策として、主に以下が挙げられます。
- DMやメールなどリマインドする
- 販売時にクーポンを発行する
購入した商品がなくなりそうなタイミングで、DMやメールなどを送付すると、追加購入を促せます。ただし、他社の商品との比較・検討を行うことも考えられるため、自社の商品のメリットなどをアピールすることが大切です。また、販売時にクーポンを発行すると、有効期限内の再購入を促進できます。
こうした施策は競合他社への乗り換えを防いで、顧客との良好な関係を構築するために有効です。
継続利用者を増やす
一般的に既存顧客を維持するよりも、新規顧客を獲得する方がコストがかかり、既存顧客をリピーターとして育成できればLTVの向上につながるため、継続利用者を増やすという方法もあります。
継続利用者を増やすためには次のような施策が挙げられます。
- メールマガジンやSNSによる情報発信を行う
- 定期購入サービスを導入する
- ポイントカードを導入する
メルマガやSNSで商品の利用を拡大できるような用途の提案を行ったり、新商品やサービスの情報を発信したりすると、顧客との継続的な関係性の構築につながります。ただし、自社の商品やサービスのアピールのみを行うと押し売り感から敬遠されることもあるため、関連したお役立ち情報も伝えるなど、顧客が興味を持つような有益な内容とするのがポイントです。
また、定期購入サービスを導入して商品の割引を行うと、継続的な利用を促せます。ポイントカードを導入して、ポイントによる値引きや会員ランクに応じたサービスの提供を行うことも、リピーターの育成に有効です。
継続利用者を増加させるには、メールマガジンなどの情報発信によって顧客との関係性を築くとともに、ポイントカードなどによる継続利用のメリットを打ち出すという、2方向からのアプローチを検討しましょう。
まとめ
市場の飽和などによって新規顧客の獲得が難しくなっていることから、安定した利益を確保していくには、既存顧客の囲い込みが以前よりも重要となっています。顧客ロイヤリティを高めてロイヤルカスタマーの育成を推進していくなど、LTVの向上を目指すことが、安定した収益の確保につながっていきます。
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